SaaS営業とは
SaaS(Software as a Service)とは、ソフトウェアをインターネット経由で提供し、月額または年額のサブスクリプション形式で利用料を受け取るビジネスモデルです。Salesforce、SmartHR、freee、Sansanなど、日本でもSaaS企業は年々増加しており、SaaS市場全体の成長に伴って営業人材の需要も拡大しています。
SaaS営業の最大の特徴は、「売って終わり」ではないことです。サブスクリプションモデルでは契約後の継続利用が収益の根幹であり、顧客の成功が自社の成長に直結します。そのため、SaaS営業には単なる販売力だけでなく、顧客課題の深い理解、プロダクトへのフィードバック、長期的な関係構築力が求められます。
また、多くのSaaS企業はThe Model型の分業体制を採用しています。マーケティング、インサイドセールス(SDR/BDR)、フィールドセールス(AE)、カスタマーサクセスの4部門が連携して、リード獲得から契約継続までのプロセスを一気通貫で管理します。この分業体制により、各ポジションに求められるスキルが明確になり、キャリアの段階的なステップアップが可能になっています。The Model型組織の詳細についてはサブスクリプションビジネスに相性の良いThe Model型組織とは?で解説しています。
SaaS営業のキャリアパス5ステップ
SaaS営業には、他の業種と比較して明確なキャリアラダーが存在します。ポジションごとに役割、必要スキル、一般的な在籍期間を整理します。
Step 1: SDR/BDR(インサイドセールス)
SDR(Sales Development Representative)およびBDR(Business Development Representative)は、SaaS営業のキャリアの入口にあたるポジションです。SDRはマーケティングが獲得したインバウンドリードに対してアプローチし、BDRはターゲット企業に対してアウトバウンドで新規開拓を行います。
主な業務は、電話やメールでの見込み顧客へのアプローチ、課題のヒアリング、商談の設定です。ここで獲得した商談をアカウントエグゼクティブ(AE)に引き渡すまでが責任範囲となります。
身につくスキル: 顧客課題のヒアリング力、電話・メールでのコミュニケーション力、CRM/SFAの基本操作、業界知識、リードの優先順位付け(リードクオリフィケーション)
一般的な在籍期間: 1年から2年。成果を出したSDR/BDRがAEに昇格するのが一般的なキャリアパスです。
Step 2: アカウントエグゼクティブ(フィールドセールス)
アカウントエグゼクティブ(AE)は、SDR/BDRが設定した商談を受け取り、提案からクロージング(成約)までを担当するポジションです。SaaS営業のキャリアにおいて中核となる役割であり、ここでの経験が以降のキャリアの幅を大きく左右します。
AEの仕事は多岐にわたります。顧客の課題を深く掘り下げるディスカバリーコール、自社プロダクトのデモンストレーション、複数回にわたる提案、見積もり交渉、契約締結まで、商談の全プロセスを主導します。担当する案件の規模はSMB(中小企業)からミッドマーケットが中心です。
身につくスキル: 提案力、プレゼンテーション力、交渉力、パイプライン管理、売上予測(フォーキャスティング)、競合対策
一般的な在籍期間: 2年から4年。ここで安定的に目標を達成できるようになると、エンタープライズAEへのステップアップが見えてきます。
Step 3: エンタープライズAE
エンタープライズAEは、大手企業(従業員数1,000名以上や上場企業など)を担当するアカウントエグゼクティブです。SMB向けのAEとの最大の違いは、商談の複雑さとステークホルダーの多さにあります。
エンタープライズ案件では、現場担当者、情報システム部門、経営層など、複数の意思決定者が関わります。1件の案件に半年から1年以上かかることも珍しくなく、各ステークホルダーの関心事項を把握しながら長期的に関係を構築する力が求められます。また、カスタマイズ要件の調整やセキュリティ要件への対応など、社内のプリセールスやプロダクトチームとの連携も不可欠です。
身につくスキル: マルチスレッド営業(複数の意思決定者への同時アプローチ)、経営層への提案力、アカウントプランニング、長期案件管理、社内外の調整力
一般的な在籍期間: 3年から5年以上。エンタープライズAEとして実績を積んだ後、マネジメントか個人貢献者(IC)としてのキャリアを選択することになります。
Step 4: セールスマネージャー
セールスマネージャーは、AEチームのマネジメントを担当するポジションです。プレイヤーからマネージャーへの転身は、SaaS営業キャリアにおける最大の転換点のひとつです。
個人の営業成果ではなく、チーム全体の成果に責任を持つようになります。メンバーの商談同席、1on1でのコーチング、KPI設計、チームの売上予測の精度管理、採用活動など、業務の性質が大きく変わります。「自分が売る」から「チームに売らせる」へのマインドチェンジが求められます。
身につくスキル: ピープルマネジメント、コーチング、KPI設計と運用、採用と育成、組織設計、経営陣へのレポーティング
Step 5: VP of Sales / CRO
VP of Sales(営業部門責任者)やCRO(Chief Revenue Officer)は、営業戦略全体を統括する経営レベルのポジションです。CROの場合は営業だけでなく、マーケティング、カスタマーサクセスを含む収益組織全体を管掌することもあります。
事業計画の策定、年間売上目標の設計、営業組織の拡大戦略、新規市場への参入判断など、経営に直結する意思決定を行います。取締役会や投資家への報告も担うため、ファイナンスやオペレーションの知見も求められます。
AI時代にSaaS営業の市場価値が上がる理由
「AIに営業の仕事は奪われるのでは」という疑問を持つ方は多いかもしれません。しかし、現時点で見えている変化は「営業職の消滅」ではなく、「AIを使いこなせる営業とそうでない営業の格差拡大」です。
AIが代替するのは、データ入力、レポート作成、議事録作成、スケジュール調整といった定型業務です。一方で、顧客の潜在課題を引き出すヒアリング、複雑な組織における合意形成、信頼関係に基づく長期的なリレーション構築は、AIでは代替が難しい領域として残ります。McKinseyのレポートでは、営業職の業務のうちAIで自動化可能なのは約15%であり、残りの85%は人間の判断力やコミュニケーション力が必要とされています。
総務省「令和5年版 情報通信白書」では、日本企業のDX推進における最大の課題として「DX人材の不足」が挙げられています。SaaS営業の文脈に置き換えると、「テクノロジーを理解し、データを活用した営業ができる人材」が不足しているということです。
Gartnerは2028年までにB2B営業のインタラクションの60%がAIを活用したデジタルチャネルで行われると予測しています。この変化に対応できる営業人材、すなわちAIツールを活用して商談データを分析し、顧客へのアプローチを最適化できる人材の市場価値は、今後さらに高まっていくと考えられます。
具体的には、カンバセーションインテリジェンスツールで商談を分析してトークを改善する、CRMデータからパイプラインのボトルネックを特定する、AIが生成した顧客インサイトを基に提案をカスタマイズするといったスキルが、これからのSaaS営業には求められます。セールスイネーブルメントの仕組みとAIツールを組み合わせることで、個人としても組織としても営業成果を最大化できる時代が到来しています。
SaaS営業に向いている人の特徴
SaaS営業で成果を出しやすい人には、いくつかの共通した特徴があります。
論理的思考力がある人。SaaS営業では、顧客の課題をヒアリングし、自社プロダクトでどのように解決できるかを筋道立てて説明する必要があります。「なぜこの機能が御社にとって重要なのか」をロジカルに伝えられるかどうかが、商談の成否を分けます。
知的好奇心が強い人。SaaSプロダクトは常にアップデートされ、市場環境も変化し続けます。新しいテクノロジーや業界トレンドに対して自発的にキャッチアップできる人は、SaaS営業で成長が早い傾向にあります。
顧客志向が強い人。サブスクリプションモデルでは、「売る」ことよりも「顧客が成功すること」が重要です。短期的な売上よりも顧客の長期的な成功を考えて提案できる人は、結果として継続率やアップセルにも貢献できます。
数値管理ができる人。SaaS営業では、アプローチ数、商談化率、平均契約単価、成約率、パイプライン金額など、あらゆる活動が数値で管理されます。数値に基づいて自らの行動を改善できる人は、SaaS営業の環境にフィットしやすいです。
変化への適応力がある人。SaaS企業ではプロダクトの仕様変更、営業プロセスの見直し、組織体制の変更が頻繁に起こります。変化をストレスではなく成長の機会と捉えられるマインドセットは、SaaS営業で長く活躍するうえで重要な素養です。
SaaS営業に向いていない人の特徴
一方で、SaaS営業は誰にでもフィットするわけではありません。ミスマッチを防ぐために、向いていない人の特徴も正直にお伝えします。
ルーチンワークを好む人。SaaS営業では、プロダクトの機能追加、競合の動き、市場の変化に合わせて営業手法を常にアップデートする必要があります。毎日同じ作業を繰り返すことに安心感を求める人にとっては、負担に感じる可能性があります。
変化を嫌う人。SaaS企業では四半期ごとにKPIが見直されたり、新しいツールが導入されたりすることが日常的に起こります。「今のやり方を変えたくない」という思考の人には、スピード感のある環境がストレスになるかもしれません。
数値管理が苦手な人。SaaS営業では活動のほぼすべてが数値化されます。CRM/SFAへの入力を面倒に感じる、パイプラインの数値を見て改善策を考えるのが苦手という人には、厳しい環境になり得ます。
テクノロジーへの関心がない人。SaaS営業は自社のソフトウェアプロダクトを提案する仕事です。テクノロジーに興味が持てないと、プロダクトの価値を顧客に伝えることが難しくなります。必ずしもエンジニアリングの知識は不要ですが、「この技術で何ができるのか」を理解しようとする姿勢は不可欠です。
短期的な成果だけを追う人。サブスクリプションビジネスでは、無理な売り方をすると早期解約につながり、結果的にチームや会社にマイナスの影響を与えます。目の前の数字だけでなく、顧客の長期的な成功を考えられることがSaaS営業には求められます。
SaaS営業の年収レンジ
SaaS営業の年収はポジション、経験年数、企業規模によって幅がありますが、dodaやビズリーチの求人データ、各社の採用ページを参考にした一般的な水準を整理します。
SaaS営業は、経験とポジションに応じて年収が段階的に上がる明確な報酬体系を持つ点が特徴です。多くのSaaS企業ではベース給与に加えてインセンティブ(変動報酬)が設定されており、目標達成度に応じて年収が変動します。
| ポジション | 年収レンジ(目安) | 備考 |
|---|---|---|
| SDR/BDR | 350万〜500万円 | 未経験入社の場合は下限付近からスタート |
| AE(SMB/ミッドマーケット) | 500万〜800万円 | インセンティブ込み。達成率により変動 |
| エンタープライズAE | 650万〜1,100万円 | 大手案件のクロージングが評価される |
| セールスマネージャー | 800万〜1,200万円 | チーム規模と達成率に応じて |
| VP of Sales / CRO | 1,000万円〜 | ストックオプション等を含む場合あり |
上記はあくまで業界水準の目安であり、スタートアップと大手SaaS企業、外資系と国内企業で大きく異なります。外資系SaaS企業ではOTE(On-Target Earnings: 目標達成時想定年収)でベースの1.5倍から2倍の設定になっているケースも珍しくありません。
aileadでの働き方
最後に、筆者が所属するaileadでの働き方を紹介します。
aileadは対話データAIプラットフォームを提供するSaaS企業です。Web会議や電話、対面商談の対話データを安全に統合・構造化し、AIエージェントが業務を自動で動かすエンタープライズ向けプラットフォームとして、400社以上の企業に導入されています。情報セキュリティマネジメントシステム(ISO/IEC 27001:2022)の認証を取得しており、金融機関や大手企業のセキュリティ要件にも対応しています。
セールステック企業であるaileadのAEは、自社プロダクトを日常的に活用しながら営業活動を行います。自分の商談データをAIで分析し、改善点を発見して次の商談に活かすというサイクルを自然と回せる環境は、SaaS営業としてのスキルを加速度的に伸ばせる土壌になっています。
少数精鋭のチームで大手企業向けの営業を担当するため、1人あたりの裁量が大きく、プロダクト開発へのフィードバックも直接行えます。エンタープライズAEとしての経験を積みたい方、AIとセールスの交差点でキャリアを築きたい方は、採用情報ページをご覧ください。
よくある質問
SaaS営業は未経験でも転職できますか?
SaaS営業は未経験からの転職が可能です。多くのSaaS企業ではSDR/BDR(インサイドセールス)ポジションで未経験者を採用しており、入社後にSaaS営業の基礎を学べます。法人営業やカスタマーサクセスの経験があると、さらに有利です。実際、SaaS業界への転職者の多くは、不動産営業、人材営業、金融営業など、異業種からの転身者です。業界未経験であっても、論理的思考力や顧客志向の姿勢があれば、活躍できるフィールドです。
SaaS営業の年収はどのくらいですか?
SaaS営業の年収はポジションと経験により異なります。一般的にSDR/BDRで350万〜500万円、AEで500万〜800万円、エンタープライズAEで650万〜1,100万円、マネージャー以上で800万円〜が目安です(dodaやビズリーチ等の求人データに基づく一般的な水準)。インセンティブ制度により、目標達成率に応じて年収が大きく変動する点もSaaS営業の特徴です。
AIに営業の仕事は奪われませんか?
定型的な業務(データ入力、レポート作成等)はAIに代替されますが、顧客との信頼関係構築や複雑な交渉、戦略的な提案はAIでは代替が難しい領域です。むしろAIを活用できる営業人材の市場価値は上がると予測されています。McKinseyの調査でも、営業職全体の約15%の業務がAIで自動化可能とされる一方、残りの業務は人間の判断力が必要とされています。重要なのは、AIを脅威と見るのではなく、AIを武器として使いこなすスキルを身につけることです。
アカウントエグゼクティブ(AE)の1日の仕事内容は?
AEの1日は、朝のパイプライン確認、午前中の顧客商談(2〜3件)、午後の提案書作成やデモ準備、夕方の社内MTGやCRM入力が典型的です。エンタープライズAEの場合は商談件数が少ない代わりに、1件あたりの準備と関係構築に多くの時間を費やします。週単位で見ると、新規商談の初回ヒアリング、既存案件の提案プレゼン、社内でのプリセールスとの案件レビュー、パイプラインのフォーキャスト報告などがバランスよく組み合わさります。
セールステック企業で働くメリットは何ですか?
セールステック企業で働くメリットは3つあります。第一に、自社プロダクトを使いながら営業するため、顧客の課題を深く理解できます。第二に、最新のAI・テクノロジー知見が自然と身につきます。第三に、プロダクト理解と営業力の両方を磨けるため、将来的にプロダクトマネージャーやCROなど幅広いキャリアパスが開けます。「自分が売っているもので自分自身の生産性も上がる」という体験は、提案に説得力を持たせるうえでも大きなアドバンテージです。
ailead編集部
株式会社ailead
aileadの公式編集部です。営業DX・AI活用に関する情報を発信しています。



